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東京高等裁判所 平成元年(行コ)104号 判決

横浜市港北区下田町五丁目二九番二三号

控訴人

株式会社下田工務店

右代表者代表取締役

鈴木操

右訴訟代理人弁護士

内野経一郎

芳永克彦

横浜市神奈川区栄町八番地六

被控訴人

神奈川税務署長

森永一夫

右訴訟代理人弁護士

青木康

右指定代理人

星野雅紀

杦田喜逸

佐藤一益

軽部勝治

千場浩平

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が控訴人の昭和五四年三月一日から昭和五五年二月二九日までの事業年度分の法人税について昭和五七年四月三〇日付けでした更正処分及び重加算税の賦課決定処分(但し、いずれも審査裁決による減額後のもの。)を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一項と同旨

第二当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示第二、第三及び当審証拠目録記載のとおりである。ただし、次のとおり付加訂正する。

1  原判決三枚目表二行目から六枚目裏三行目末尾までを削除する。

2  同七枚目表二行目から八枚目表八行目の末尾までを次のとおり改める。

「控訴人と佐々木商会との間の本件第二物件の売買における右裏金を含めた売買代金は、坪当たり三八万円であり、実測の結果、総額八二五八万〇九〇〇円とする旨合意された。

控訴人は、昭和五三年一二月二八日、株式会社山西工務店(以下「山西工務店」という。)に対し、本件第二物件を、代金坪当たり四七万円、総額一億〇二一四万六〇〇〇円で売却した。

控訴人の山西工務店に対する右売却価格から佐々木商会からの右買入価格及び浅井輝雄に対して支払った仲介手数料二六〇万円を控除した差額一六九六万五一〇〇円を超えて譲渡益を得ていない。

しかるに、被控訴人は、右裏金分一五一九万円は佐々木商会からの購入代金に含まれないとして原告の益金に右金額を加算して本件処分を行ったから違法である。」

3  同九枚目裏六行目から九行目までを削除する。

4  同一〇枚目裏六行目の「三件」を「東京都世田谷区太子堂二丁目三四九番の三、同番の九及び同番の一四の土地(地積合計一八三・六四平方メートル)並びに東京都世田谷区太子堂二丁目三四九番地の二所在の建物(床面積六九・一二平方メートル)(以下これらの不動産を併せて「本件第一物件」という)および本件第二、第三物件」と改める。

5  同一一枚目表三行目の「中野商事」を「株式会社中野商事(以下「中野商事」という。)」と改める。

6  同一一枚目表五行目の「古河産業」を「古河産業株式会社(以下「古河産業」という。)」と改める。

7  同一一枚目裏三行目の「三晃住建」を「三晃住建株式会社(以下「三晃住建」という。)」と改める。

8  同一二枚目表四行目の「原告は、」の次に「昭和五三年三月七日、佐々木商会から本件第二物件を代金坪当たり三一万円、総額六七三九万〇九〇〇円で買い受け、その後、」を加え、五行目の「原告所有の本件第二物件」を「これ」と改める。

9  同二〇枚目表六ないし七行目の「(1)ないし(3)の各事実は否認する」を次のとおり改める。

「(1)の事実は認める。

(2)の事実のうち、控訴人が昭和五三年一二月二八日、山西工務店に本件第二物件を代金一億〇二一四万六〇〇〇円で売却したこと及び控訴人が同物件を株式会社サガミに代金八六九五万六〇〇〇円で売却し、これを同会社が山西工務店に代金一億〇二一四万六〇〇〇円で売却したかのような売買契約書を作成し、それに対応した経理処理を行ったうえ、同物件の譲渡収入を八六九五万六〇〇〇円として申告したことは認め、その余の事実は否認する。なお、控訴人が本件第二物件の転売について右のように納税申告をし、原審においても同様の主張をしてきた理由は、佐々木商会からの購入代金のうち一五一九万については裏金とする約定であったからである。

(3)の事実は否認する。」

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は原判決の理由と同一であるからこれを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

1  原判決二二枚目表六行目から三八枚目表九行目の末尾までを「被控訴人の主張1(二)(1)の事実は当事者間に争いがない。従って、本件第一物件の右売買取引によって生じた譲渡益七六三万二五〇〇円(譲渡収入六三九三万六〇〇〇円から購入価格五一八〇万三五〇〇円及び仲介手数料合計四五〇万円を控除した金額)は控訴人に帰属するものである。」と改める。

2  同三九枚目表一行目の次に、次を加える。

「(一) 控訴人が山西工務店に対し、本件第二物件を代金一億〇二一四万六〇〇〇円で売却したこと及び控訴人が同物件を株式会社サガミに代金八六九五万六〇〇〇円で売却し、これを同会社が山西工務店に代金一億〇二一四万六〇〇〇円で売却したかのような売買契約書を作成し、これに対応した経理処理を行ったうえ、同物件の譲渡収入を八六九五万六〇〇〇円として申告したことはいずれも当事者間に争いがない。」

3  同三九枚目表二行目から四五枚目裏一〇行目までを次のとおり改める。

「(二) 成立に争いのない甲第二二号証の一、乙第七号証、証人浜頭菊雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証、第二六号証、弁論の全趣旨により真正に成立(写しについては原本の存在及び成立)したと認められる甲第二二号証の二、第二三、二四号証、第二五号証の一、二、第五六ないし七四号証、乙第一八号証の一、二、第三〇号証の一ないし四、証人佐々木理一郎(原審及び当審、以下同じ。)、同浜頭菊雄の各証言、控訴人代表者鈴木操尋問の結果(但し、後記信用しない部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。

(1)  本件第二物件の購入状況

控訴人と佐々木商会は、昭和五三年三月七日、佐々木商会がその所有する本件第二物件を控訴人に対し代金六七三九万〇九〇〇円(坪当たり三一万円)で売り渡し、控訴人がこれを買い受ける旨の契約をし、控訴人は、同日、手付金として一〇〇〇万円を、同年一〇月三〇日、残金五七三九万〇九〇〇円を支払い、両者ともその旨の会計処理をし、かつ、納税申告をした。なお、控訴人は、佐々木商会から、本件第二物件を買い受けたのと同日に、横浜市篠原西町一一七番の土地(以下「訴外物件」という。)を代金五二三九万六二〇〇円(坪当たり三一万円、実測後に清算する約定があった。)で買い受けた。

(2)  本件第二物件の代金受領状況及び控訴人の経理状況

控訴人は、山西工務店から、本件第二物件の売買契約の当日である昭和五三年一二月二八日、手付金として金三〇〇〇万円の支払いのため、額面一〇〇〇万円の小切手三通の交付を受けたほか、中間金として、昭和五四年四月一〇日に現金五〇〇万円及び同年六月二〇日に現金一〇一九万円を、いずれも控訴人事務所においてその代表者鈴木操が受領し、更に同年一〇月三〇日に残金五六九五万六〇〇〇円の支払いのため、同額の小切手の交付を受けた。控訴人は、右支払いを受ける都度、株式会社サガミ名義の領収証を交付した。なお、中間金が右のとおり現金で支払われたのは、控訴人代表者鈴木操の要請によるものであった。また、控訴人は、同年六月二〇日、浅井輝雄に対し、仲介手数料二六〇万円を小切手二通(額面一六〇万円と一〇〇万円の各小切手)で支払った。」

4  同四七枚目表一〇~一一行目の「売買契約・・・売却」までを「中間金の授受には立ち会っておらず、昭和五四年六月中旬ころ山西工務店が中間金を持参」と改める。

5  同四七枚目裏六行目の「ばかりでなく」から四八枚目表七行目の「できない」までを削除する。

6  同四九枚目表六行目の「黒田弘之は」を「山西工務店の資金援助者である株式会社共信不動産の代表者である黒田弘之は、山西工務店の者に同行して、」と改める。

7  同四九枚目裏七行目の「同人らは」を「同人らが控訴人と山西工務店との売買において果たした役割に照らせば、」を加える。

8  同四九枚目裏一一行目の次に、次を加える。

「(三) 控訴人は、佐々木商会からの本件第二物件の購入価格について、右認定の額はいわゆる表契約の金額であって、実際に両者間で合意された金額は、控訴人が裏金として支払う一五一九万円を加えた八二五八万〇九〇〇円である旨主張する。

しかし、一般に、青色申告者が確定申告書において土地譲渡益に対応する原価として或る金額を記載して申告を行ったときは、このことによって右原価は右金額であること、従って、右金額を超える損金は存在しないことが事実上推定されるものというべきである。本件において、控訴人は佐々木商会との間の本件第二物件の売買の代金額として六七三九万〇九〇〇円という金額を記載して申告しているのであるから、右代金額は右金額であること、従って、右金額を超えて損金となるべき裏金は存在しないことが事実上推定されるというべきである。そこで、以下、右の点についての反証について検討する。

証人浅井輝雄、同佐々木理一郎の各証言及び控訴人代表者鈴木操尋問の結果によれば、佐々木商会は、以前から不動産取引において売買契約書に記載した売買価格以外に裏金を要求することがあったことが認められ、また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四四号証、証人佐々木理一郎の証言及び控訴人代表者尋問の結果によれば、佐々木商会は、本件第二物件及び訴外物件の取引に際しても裏金を要求したことが窺われないではない。

しかしながら、証人佐々木理一郎の供述は、佐々木商会が本件第二物件と訴外物件に関して裏金として二〇〇〇万円以上を受け取ったが、その時期及び支払いを受けた回数は記憶がない(原審)とか、これら裏金として受け取ったのはせいぜい一〇〇〇万円から二〇〇〇万円であり、その回数は二、三回であろうが、時期についてはやはり記憶がない(当審)というのであって、本件取引からは長期間が経過したことを考慮しても、裏金の対象となる取引、裏金の金額、裏金の授受の回数、裏金授受の日時等に関して極めて曖昧であって到底これらの事実を特定するに足りない。また、同人は、右裏金については佐々木商会として修正申告をしたと供述するが、証人浜頭菊雄の証言によれば、佐々木商会は右裏金については修正申告をしたことがないことを認めることができるのであるから、その点においても右供述は採用し難い。

甲第二八号証、証人浅井輝雄の証言及び控訴人代表者鈴木操尋問の結果の各一部には、本件第二物件について佐々木商会から要求された裏金は一五一九万円(坪当たり七万円)であるとの部分が存するが、証人佐々木理一郎の証言によれば、同人が土地の売買取引において要求、受領した裏金は五〇〇万円あるいは一〇〇〇万円刻みの単位の金額であることが認められ、これに照らすと右各供述等は措信し難い。

また、前記甲第四四号証(三晃住建の代表者小林康彦の上申書)によれば、佐々木商会が訴外物件についても裏金を要求したため、控訴人は、同物件の転売先である三晃住建に手付金の外一〇〇〇万円の現金を用意させ、これを昭和五三年三月七日に佐々木商会に対して支払った旨の記載があるが、右小林は、控訴人代表者鈴木が佐々木理一郎に右裏金を交付した際に事務所外からガラス越しに目撃したところを述べているのに過ぎず、必ずしも明確なものとはいえないこと、また、右書証中の小林自身の言葉及び証人鈴木彦太郎の証言によって認められる当時の三晃住建の財務状況の悪さに照らして、同会社が直ちにそのような資金調達ができたかについても疑問が残り、直ちに措信し難いところである。

更に、前記甲第二八、二九号証及び証人浅井輝雄、同荒川芳三の各証言並びに原告代表者鈴木操尋問の結果中の、昭和五四年六月中旬ころ、山西工務店から受領した中間金一五一九万円を佐々木理一郎の娘に交付したとの部分が到底措信できないことは先に判示したとおりである。

以上のとおりであるから、控訴人主張の裏金については、本件第二物件の取引が佐々木商会による裏金要求の対象の取引であったか否かを始め、その金額、その支払い回数、日時及び場所並びにその受取人について、これを特定するに足りる証拠はなく、前記控訴人の購入代金額の推定を揺るがすに足りる反証はないというべきである。」

9  同五〇枚目表一行目から五三枚目裏二行目までを次のとおり改める。

「(四) 右当事者間に争いのない事実及び認定した事実を前提にして、控訴人が本件第二物件の取引により取得した譲渡益について判断する。

控訴人は、昭和五三年三月七日、佐々木商会から本件第二物件を六七三九万〇九〇〇円で購入し、これを同年一二月二八日、山西工務店に対し、一億〇二一四万六〇〇〇円で売り渡し、仲介手数料として浅井輝雄に二六〇万円を支払ったが、昭和五四年一〇月三〇日までにその代金全額を受領している。

そうすると、控訴人の本件第二物件の売却による譲渡益は、控訴人主張の一六九六万五一〇〇円より一五一九万円多い三二一五万五一〇〇円であるというべきであり、控訴人は、一五一九万円の譲渡益を計上漏れにして納税申告をしたことになる。」

10  同五四枚目裏三行目の「同浜頭菊雄」の次に「、同苫米地勝吉(当審)」を加える。

11  同六三枚目表一行目の「申告せず」の次に「(この事実は当事者間に争いがない。)」を加える。

12  同六三枚目表三行目の「しており、」を「したが、当審では、売却代金について右の減額はしないものの、購入代金を一五一九万円増額して主張し、結局、同額の譲渡益を計上漏れとしており、」と改める。

13  同六五枚目表二行目の「おらず、」を「申告しなかったが、当審では、売却価格一億〇二一四万六〇〇〇円については当事者間に争いがなく、」と改める。

14  同六九枚目裏一行目の「前記二1において認定したとおり」を「前記二1のとおり」と改める。

15  同六九枚目裏三行目の「取得しながら、」を「取得したがこれを申告しなかったが、」と改め、その次に、次を加える。

「成立の争いのない甲第一号証、第一一、一二号証、乙第一、二号証、第四、五号証、第一六号証の一、第二一、二二号証の各一、第二三号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証、第一六号証の二ないし五、第二一号証の二、第二二号証の二ないし五、証人鈴木彦太郎の証言により真正に成立(写しについては原本の存在と成立)したと認められる甲第一三、一四号証の各一、第一八号証の一、二(ただし、甲第一八号証の一のうち三晃住建作成部分を除く。)、第一九号証の一ないし四、第二〇号証の一ないし三、第二一号証、第三二、三三号証、第五三号証の一、二、第五四、五五号証、弁論の全趣旨により真正に成立(写しについては原本の存在と成立)したと認められる甲第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証の一、二、第五号証の一ないし七、第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証、第一五号証、第一六号証の一、二、第四三号証(一部)、第四五ないし第五二号証、証人美濃雅敏(一部)、同鈴木彦太郎(一部)、同浜頭菊雄の各証言、控訴人代表者鈴木操尋問の結果を総合すれば、控訴人は、」

16  同六九枚目裏九行目の「免れようとした」の次に「ことが認められる」を加える。

二  以上のとおり、原判決は相当であるから、行訴法七条、民訴法三八四条により、本件控訴を棄却する。訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九五条、八九条適用。

(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 伊藤博 裁判官 吉原耕平)

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